35mmのレンズというと日常的に使いやすい画角で、寄ったり引いたり自分自身が動いて写真の中に収める景色を変えるという単焦点レンズの面白みを最も感じられる画角でもあると思っている。
その中でもFUJIFILMの「XF23mm F1.4 R」は、開放F1.4というボケ表現も楽しめるレンズだ。
特にこのレンズは、開放での柔らかい描写から絞った時の繊細な描写まで、さまざまな表現を楽しめるレンズとなっている。
今回は、僕の常用レンズでもある「XF23mm F1.4 R」をレビューしていきたい。
XF23mm F1.4 R の概要
まずは簡単に、このレンズの概要でも。
レンズ構成 | 8群11枚(非球面レンズ1枚) |
撮影距離範囲 | 0.6m〜∞(マクロ:28cm〜∞) |
最大撮影倍率 | 0.1倍 |
外形寸法 | Φ72mm × 63mm |
質量 | 約300g |
フィルターサイズ | Φ62mm |
35mm画角でF1.4の大口径となると、フルサイズ用のレンズではかなり大きなものとなる傾向があるが、「XF23mm F1.4 R」はAPS-Cサイズのレンズなだけあって、小型・軽量に仕上がっている。
手にすっぽり収まるサイズ感で、カメラバッグへの収納などもスペースをあまり占有しないのも良いところだ。
鏡筒は金属製で、半ツヤの塗装は質感が良く高級感がある。
このレンズは距離指標付きのフォーカスリングを備えている。
フォーカスリングを手前にスライドするとロックが外れ、自動的にMFに切り替わる。
メニューを開いたりなどというボディ側のボタン操作をすることなく、ワンアクションのレンズ操作だけで瞬時に切り替えできるのはかなり便利であり、見た目的にもFUJIFILMらしいクラシカルな雰囲気を醸し出している。
もちろん、絞りリングも搭載されており、1/3クリックずつ絞りを調整する事ができる。このレンズの絞りリングは比較的軽めで、ドライな感じ。
レンズフードはプラスチック製の花形フードが付属する。
僕はフードはつけない派なのであまり気にしてはいないが、デザイン的にあまり似合っているとは思っていない。
ただ、別売りで「LH-XF23」という専用レンズフードがあり、こちらはデザイン・質感ともに良いのでオススメ。(僕は重たくなるのが嫌で付けてないけど)
装着例
X-Pro3
X-Pro3自体はあまりグリップの大きな機種ではないが、レンズ重量的には十分に許容できる組み合わせだ。サイズ感もバランスが良く、個人的には付けっぱなしレンズのベストチョイスだと思っている。
X-E4
コンパクトな機種のため、見た目は少しアンバランスな印象も受けるが、使用感に関してはそれほど悪くない。
約300gという重量は思っているよりも軽く、他の小型機種でもほとんど不満なく使える組み合わせだろう。
他の23mmとの比較
Xマウントには「換算35mm」は他にもいくつか存在する。この選択肢で悩むユーザーも多いと思うので、簡単に比較してみる。
XF23mm F2 R LM WR
撮影距離範囲 | 22cm〜 |
外形寸法 | Φ60.0mm×51.9mm |
質量 | 約180g |
フィルターサイズ | 43mm |
このレンズは僕も以前に使っていたレンズで、同じ23mmでもF1.4のものとはかなりキャラクターが異なる。
僕はパートナーを撮ることが多いため “ボケた方がいいじゃん!”ってことで解放F値を優先して買い替えたが、こちらのF2モデルも優秀なレンズであることは間違いない。
軽量コンパクト、防塵防滴、リニアモーターによる高速AF、優れたビルドクオリティー。シチュエーションに左右されない使い勝手の良さは、このレンズの特筆すべきポイントだろう。
個人的な意見としては、ポートレートがメインの人は表現力が高く、繊細な描写をするF1.4のモデル、ストリートでのスナップなどがメインの人は適応力の高いF2モデルがオススメだ。
VILTROX 23mm F1.4 STM
撮影距離範囲 | 30cm〜 |
外形寸法 | Φ65mm×72mm |
質量 | 約260g |
フィルターサイズ | 52mm |
最近勢いのある(?)Xマウントとしては珍しいサードパーティー製のレンズだ。
純正の23mm F1.4とスペックはほぼ同等だが、VILTROXの方がレンズがコンパクトで軽量だったり、STMフォーカスモーターを積んでいることでAFが高速だったりと、全体のトータルバランスが優れている印象だ。
画質に関しては、僕は使ったことがないため比較することはできないが、ネット上でのレビューを見た感じでは全く問題なさそう。少し周辺減光が多いらしいけど。
デザインはあまり好みではないが、レンズの造りはかなり良く、レンズフードまで金属製というのはかなり珍しい。
純正レンズとの異なる点は、絞りリングが無段階ということだ。動画撮影では便利な機構だと思うが、クリック感が欲しい人も多いので好みが分かれる部分だろう。
なんといっても最大の特徴はコストパフォーマンスだ。このVILTROXのレンズは純正の約1/3の価格で購入することができる。エントリーユーザーにはかなりオススメな選択肢だと思っている。
作例
※ 以下の写真は「lightroom」を使用してRAW現像したものです
スナップ
植物の写真というと、葉っぱや花がたくさんあるとざわざわとしたうるさい写真になりがちだが、F1.4のボケ表現があるとそうした“うるささ”も感じにくい。
また、このレンズの柔らかい写りや線の細さは植物との相性が良く、植物本来の質感をよく表現できている気がする。
35mmのレンズは屋内でも使いやすい画角で、外出できない状況でも写真を楽しめる。ちょっとしたインテリアや家族の日常を撮るだけでも十分楽しいから、35mmはオススメだ。
35mmというと他の10mm台やポピュラーな24mmみたいな広角と比較するとかなり狭い部類だが、ある程度の風景なら撮れてしまう。
ダイナミックさには欠けるが、目に映るままのフレームを切り取ることができるのでリアリティは高い。
また、このレンズは絞ってもの線が太くならないため、風景写真においてもスッキリとした写真が撮れる印象だ。
ポートレート
ポートレートってほどのものではないが、パートナーをとった写真でも。
顔出しはしていないが、ボケ感や画角の感じを参考にでもしていただけたら。
まずは「寄り」と「引き」の写真を。
寄って被写体を強調するも良し、引いて風景の中に被写体を配置するも良し。35mmはこうした寄りと引きの適応力の高さが魅力だと思う。
35mmの最も好きなところは「距離感」だ。
近寄りすぎるわけでもなく、離れないとフレームに収められないわけでもない。被写体との距離感をそのまま切り取ることができるのは35mmという画角の最大の魅力だろう。
家族やパートナーを日常的に撮るのなら、圧倒的に35mmのレンズを推している。
比較的広角な画角ではあるが、やはりF1.4の絞り開放であれば十分に立体感のあるボケ表現ができる。背景の情報を適度に残しつつ被写体を強調するボケ感が非常に良き。
中望遠レンズなどのとろけるようなボケも魅力的ではあるが、何が写っているかわからないほどボケるよりは、その場所の空気感がわかる程度のボケ感が個人的には好みだ。
絞り開放では、ハイライトがきつい状況で少しフリンジが目立つ印象だが、RAW現像で十分修正可能な範囲だ。jpeg撮って出しで撮るならほとんど気にならないレベルだろう。
解像度に関してはバキバキに解像する現代的なレンズの描写ではないが、”写りすぎない“感じがポートレートには向いている気がする。
使用感
ダントツで扱いやすいスペック
特筆すべきは、手に馴染む適度なサイズ感、F1.4という大口径、35mmという標準的な画角というトータルスペックが日常使いに最適であるという点だろう。
35mmという画角は寄りも引きも撮れるオールマイティーな画角で、F1.4という解放でのボケ感を合わせれば、色んな表現力を見せてくれるレンズだ。
風景を撮るには少し狭めの画角ではあるが、日常的な記録として写真を撮るには必要十分な画角で、スナップポートレート的にパートナーを撮るのには最適過ぎる。
また、F1.4の明るさは、屋内や夕暮れ時の薄暗いシチュエーションなんかでもシャッタースピードを高く設定できるのも利点の一つだ。
画質は?
解放F値が異なるが、同じ画角である「XF23mm F2 R LM WR」がややコッテリとした力強い描写であったのに対して、「XF23mm F1.4 R」は柔らかさもありながら、適度な解像感もある繊細な描写が特徴だと思う。
絞り解放付近では少し滲むような柔らかさもあり、カリカリの解像感っていうわけではないため、このレンズの描写は好き嫌いが別れそうだ。
個人的にはもう少し解像感がある方が好みだが、ボケ感はAPS-Cの35mmとしては十分で、その場の景色や雰囲気を適度に残しながらも被写体を強調するボケ感は絶妙だ。
被写界深度が浅すぎて使いにくいということも無く、積極的に絞り解放を使いたくなる。
AFの速さ
AF速度に関しては、最新世代のセンサー・画像処理エンジン(2021年現在)を搭載したモデルでしかこのレンズを使ったことがないが、X-Pro3やX-E4で使った感じは必要十分な速さだ。
他のFUJIFILMの大口径ラインナップ同様に動体を追うには少し厳しいが、普通にポートレートを撮る分には全く問題ない。
AF-Cでは、前後方向の動きに対しては少し速い速度になるとフォーカスがワンテンポ遅れる感じがするが、横方向への動きに対する追従性は悪くない印象だ。
最近流行りのVlogにも十分対応できるAFの速度と追従性だが、AFの駆動音はわずかに聞こえるため、動画に使うにはマイクなどの工夫が必要だろう。
イマイチなところは?
フォーカスクラッチ機構は便利だけど…
XF23mm F1.4 Rには、フォーカスモードをレンズ側で切り替えられる「フォーカスクラッチ機構」が搭載されている。
AFからMFに素早く切り替えられるのは非常に便利だが、構造的にレンズにゴミが少し溜まりやすい。
あと、FUJIFILMのカメラはボディ側にフォーカスを変更するレバーが搭載されていることが多いため、レンズ側の機構を使うのはあまり多くない。
あまり寄れない
これは他のレビューなどでもよく目にするが、最短撮影距離が28cmとやや寄りには弱い。
テーブルフォトなどを撮るには十分だが、マクロ的な使い方まではできない。
防塵防滴じゃない
これは個人的に一番惜しいなと思う部分で、このレンズは防塵防滴になっていない。
常用しやすいスペックなのに、雨天や水場では気を使ってしまうのが少しもったいないな〜と思ってしまう。
最後に
「XF23mm F1.4 R」は、Xマウントの中でも比較的高価なレンズではあるが、35mmという画角は日常で使えるシーンが幅広く、個人的には最もオススメな画角だ。
解像度がとても高いっていうわけでもなく、収差が徹底的に抑えられているわけでもなく、AFが爆速ってわけでもなく、防塵防滴でもない。
一見すると、現代的な高級ハイスペックレンズのような特徴はないが、FUJIFILMらしいこだわりを感じるレンズでもある。
Xマウントユーザーには一度試してもらいたい、推しレンズだ。
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