フルサイズセンサーを搭載していながら圧倒的な携帯性や自分好みにカスタマイズできる拡張性と言った、他のカメラには無い特徴を持ったカメラ「SIGMA fp」。
動画性能が注目されることの多いカメラではあるが、スチル撮影においても十分過ぎるほど基本性能も高く、SIGMA fpだからこその魅力も詰まっている。
今回はそんなSIGMA fpのスチル撮影にフォーカスしてレビューをお届けしたい。
SIGMA fp の概要と外観
「SIGMA fp」は様々な要素を削ぎ落とすことで、小型・軽量なボディとなっていることが特徴だ。
また、ユーザーが好みでカスタマイズできる拡張性の高さもSIGMA fpの魅力だと言える。
外観上の特徴と言えば、スクエア型のボディにグリップも無いシンプルな構造。メーカーロゴも無く、フロント部に「fp」の文字だけが控えめに刻印されている。
SIGMAのカメラと言えば「Foveonセンサー」を連想するが、SIGMA fpにはベイヤー配列のセンサーが搭載された。
撮像素子 | 35mmフルサイズ 裏面照射型CMOSセンサー 有効画素数:約2460万画素 |
AF形式 | コントラスト検出方式 |
ISO感度 | 設定可能範囲:ISO 100~25600 (拡張感度:ISO 6,12,25,50,51200,102400) |
手ぶれ補正 | 電子式(EIS) |
シャッター | 形式:電子シャッター シャッター速度:30秒〜1/8000秒(Bulb:最長5分) ※ EIS使用時は1/4000秒まで セルフタイマー:2秒、10秒 |
モニター | TFTカラー液晶 3.15型 約210万ドット 静電容量方式タッチパネル |
バッテリー | 静止画撮影可能枚数:約280枚 動作撮影可能時間:約70分 |
外形寸法 | 112.6 × 69.9 × 45.3 mm |
質量 | 422g(SDカード、バッテリー込み) |
レンズマウントは「Lマウント」となっており、ライカSL用やPanasonicのLマウントレンズをネイティブに使用することができる。
ボディ側の手ぶれ補正は電子式のものを搭載しているが、(1回のレリーズで複数の画像を合成するため)動きものやストロボを使用した撮影では使うことができず、実用性はそれほど高いとは言えない。
上面には電源スイッチ、シャッターボタン、ダイヤルの他に動画撮影時のRECボタンと静止画-動画切り替えのスイッチが搭載されている。
メニューを開かずとも、写真撮影と動作撮影をシームレスに切り替えることが可能だ。
ダイヤルはシャッターボタンにオフセットされているため、上面もフラットな設計となっている。
背面はモニターの占有率が高く、ボタン類も多く配置されているため、手の大きい人は少し操作しづらいかもしれない。
ボディ下端のボタンは左端から再生、画面表示切り替え、トーンコントロール、カラーモード切り替え、撮影モード切り替えのボタンが配置されている。
右側3つのボタンは好みの設定を割り当てることも可能だ。
インターフェイスは、上からUSB(Type C)、HDMI(Type D)、ステレオミニジャック(Φ3.5mm)となっている。
HDMI端子のカバーだけ取り外し式のため、無くさないように注意が必要だ。
底面はバッテリー収納部と三脚穴があり、SDカードはバッテリー収納部に挿入されている。
SIGMA fpではレンズの光軸上に三脚用のネジ穴が設置されている。
コンパクトな三脚プレートであればバッテリー蓋に干渉しないので、地味ながらも評価したいポイントだ。
付属品と別売りアクセサリー
付属品
ストラップホルダー「SH-11」
SIGMA fpには、ストラップを取り付けるためストラップホルダー「SH-11」が付属する。
両サイドにある1/4インチネジ穴に固定することで、ストラップを装着できるようになる。
ネジの緩みには注意が必要だが、コインでも締めることができるので外出中でも困ることは少ないだろう。
ホットシューユニット「HU-11」
付属のホットシューユニット「HU-11」を装着することで、SIGMA fpでもストロボなどを使えるようになる。
裏面にはHDMI端子のカバーを収納可能だ。
ホットシューユニットを付けてしまうとボディ側の1/4インチネジ穴を塞いでしまうが、ホットシューユニット自体にネジ穴があるため問題なくストラップなどをつけることができる。
別売りアクセサリー
ハンドグリップ「HG-11」
筆者は、別売り純正アクセサリーの「HG-11」を装着している。
グリップ本体は金属製で、シボ部分はラバー製となっているあたりはさすが純正品といったクオリティー。
もちろん、こちらにもネジ穴が設けられている。
SIGMA fpのコンパクトさを損なわないサイズ感でありながら、ホールド感が格段に上がるアイテムだ。
背面側のサムレストもよく効いていて、このハンドグリップを付けるだけでガッチリとカメラを構えることができる。
ちなみに、純正品のハンドグリップには「ラージハンドグリップ HG-21」もラインナップされている。
こちらは底面の三脚穴を利用して装着するタイプで、HG-11と比較して大型のグリップとなっている。底面プレートがアルカスイス互換になっていないのが残念なところ。
純正バッテリー
SIGMA fpはバッテリーの消費がかなり早いため、サブバッテリーは必須アイテムと言える。
バッテリーチャージャーは付属していないのでセットで購入したいところだが、SIGMA fp専用のものは少しお高い…
レンズ装着例
SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary
大三元レンズとは思えないコンパクトさが特徴の「SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary」はこちらもコンパクトさが特徴のSIGMA fpと相性が良い。
携帯性だけでなく汎用性も高いレンズなので、常用したくなる組み合わせだ。
SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art
比較的大型のレンズである「SIGMA 14-24mm F2.8 DG DN|Art」の場合、素の状態だとややホールド感に欠ける。
さすがにフロントヘビーとなる組み合わせなのでグリップ装着推奨だ。
LUMIX S 50mm F1.8
「LUMIX S 50mm F1.8」もコンパクトなレンズなためSIGMA fpとベストマッチだ。
レンズ自体の重量も軽くいため、フットワークの軽い撮影が可能だ。
コンパクトなレンズと言えばSIGMAの「Iシリーズ」が注目されているが、LUMIXのF1.8シリーズも個人的にはオススメだ。
作例
SIGMA fpには、全15種類のカラーモードを搭載している。
今回は人気の「ティールアンドオレンジ」とアップデートで追加された「パウダーブルー」を使って撮影した。
また、「シネマスコープ」という映画に用いられるアスペクト比に近い「21:9」のアスペクト比を使って作例を用意した。
(カラーモードだけ設定し、他の設定は基本的にオートの撮って出しとなっている)
ティールアンドオレンジ
「ティールアンドオレンジ」は、オレンジ系とその補色であるティール系の色味が特徴的なカラーモードだが、京都のような古風な景観によく合うカラーモードだと思う。
暖色系の被写体はバチッと色が出て、ハイライトもスッキリした空気感のある描写だが、シャドーの多いシチュエーションではやや青みの要素が強くなる印象だ。
映画のグレーディングからインスパイアされた色調なだけあって、21:9のアスペクト比で撮るとシネマティックな写真となる。
フルサイズセンサーによる階調の良さも相まって、なんとなく撮ったスナップでもかなり満足度の高いクオリティーだ。
暖色と寒色のバランスが取れたカラーモードだが、植物のグリーン系の色は少し曖昧な色味になる傾向がある。
カラーモードの適用量やホワイトバランスを調整すれば少しはマシになるかもしれないが、個人的にはややクドい印象に感じてしまうので植物が写り込むシーンではあまり使っていないカラーモードだ。
パウダーブルー
「パウダーブルー」は寒色系の色味が特徴でややハイキー気味の描写となるカラーモードだ。
かと言って極端に青系の色に転ぶわけでなく、それぞれの彩度もきちんと出る絶妙なバランスの味付けとなっている。
意外とシチュエーションを選ばない万能なカラーモードだと思う。
寒色系のスッキリとした色味と透明感のある描写で、植物を撮ると非常に綺麗に写る。撮って出しでこの色味が出るのなら積極的に使っていきたいカラーモードだ。
人肌は少し血色が悪く見えてしまう写りをしてしまうこともあるが、ポートレートでも使えないことはなさそうだ。
スナップポートレート的に使えばどことなくドラマチックな描写を楽しめるだろう。
使用感
これぞ “ポケッタブルフルフレーム”
このカメラの最大の特徴はやはり “最小・最軽量のフルサイズミラーレスカメラ” なことだが、この携帯性の高さは日常の撮影をより快適なものにしてくれる。
もちろん、センサーサイズを妥協すれば更に携帯性の高いカメラは存在するわけだが、フルサイズ機ならではの高画質・暗所性能・ボケ表現があることを考えるとSIGMA fpのアドバンテージはかなり大きい。
また、コンパクトなカメラバッグにもすっぽり収めることができる。
軽い撮影であればPeak Designの「EVERYDAY SLING 3ℓ」を使うことが多いが、小型のバッグでも余裕で収納することが可能だ。
これだけ身軽な装備で、様々なシチュエーションに対応できるレンズセットとフルサイズ画質を持ち運べるのだから、さすがメーカーが “ポケッタブルフルフレーム” と謳うだけある。
操作性について
カメラの操作性はサイズとトレードオフの関係にあると思うが、SIGMA fpの操作性は個人的にかなり良いと思う。
目的の設定項目にアクセスしやすいように個別のボタンが用意されているし、QS(クイックセット)ボタンから大抵の設定を行うことができる。
また、それぞれのボタンに好みの機能を割り当てられるため、ユーザーの使いやすいようにカスタマイズすることも可能だ。
ちなみに筆者は、前ダイヤルに絞り、後ろダイヤルにダイレクトフォーカス、TONEボタンに露出補正を割り当てて、絞り優先モードで撮影することが多い。
ボディが小さいためボタン配置はやや窮屈に感じるが、こればかりは仕方ないだろう。
撮って出しが秀逸
SIGMA fpには豊富なカラーモードやトーンコントロール、Fill light機能(シャドウ部の明度を調整する機能)など、撮って出しでも十分に満足できるクオリティに仕上げられる機能が搭載されている。
筆者はカメラを始めてからずっとRAW現像派なのだが、SIGMA fpを購入してからは撮って出しで遊ぶことも増えた。
特に「パウダーブルー」を使うと、なんとなく撮った写真もどこかドラマチックな雰囲気になるし、ホワイトバランスを少し触るとフィルム写真のような色味になったりもする面白さがある。
それぞれの設定項目にもアクセスしやすい設計になっているため、その場で素早く好みの設定にすることができるのも撮って出しユーザーには非常に大きなメリットだろう。
SIGMA fp の気になるポイント
起動が少し遅い
SIGMA fpは電源ONでアニメーションが流れてから画面が切り替わるのだが、この数秒のせいで起動が遅く感じてしまう。
その携帯性の高さからスナップ撮影にも適したカメラだと思うが、撮りたいなと思ったタイミングからテンポが遅れることもあるので、少しストレスを感じる部分だ。
フリッカー問題
SIGMA fpは電子シャッターを採用している。
無音撮影が可能とか、シャッターブレが起きにくいとか、故障しにくいなどのメリットもあるが、フリッカーに関してはかなりのデメリットを感じている。
簡単に言うと、人工光源下での撮影で縞模様のようなものが写ってしまう現象なのだが、これがなかなか厄介だ。
シャッタースピードを遅くするなどの対策もあるのだが、屋内で人物を撮る場合には手ぶれや被写体ブレを起こしてしまう可能性が上がってしまう。
動かない被写体であれば問題無いが、屋内撮影での実用性はあまり高くない。
「SIGMA fp L」との違いは?
SIGMAにはSIGMA fpの上位機種として「SIGMA fp L」というカメラも存在する。
SIGMA fp | SIGMA fp L | |
イメージセンサー | 2460万画素 | 6100万画素 |
光学ローパスフィルター | なし | あり |
オートフォーカス | コントラストAF | ハイブリットAF (コントラスト+像面位相差) |
連写速度 | 約18コマ/秒 | 約10コマ/秒 |
バッテリー | 静止画:約280枚 動画:約70分 | 静止画:約240枚 動画:約60分 |
fpは昨今のベーシックとも言える約2400万画素程度だが、fp Lは6100万画素もの高画素となっている。
写真データとしては、DNG、jpegともに約2倍程の容量になるらしい。ストレージの圧迫はなかなかのものだろう。
AFの違いに関しては、fp Lは「ハイブリットAF」を搭載している。
fpのコントラストAFでも十分使えるのだが、ハイブリットAFであればフォーカス性能はより実用的なものになりそうだ。
また、fp Lでは「USB給電しながらの使用」、「最大5倍のクロップズーム」が可能となった。
ユーザビリティの高さにおいてもfp Lに軍配が上がる。
最後に
SIGMA fpはこれまでのカメラと趣向の違ういわゆる “尖ったカメラ” なわけだが、他と違うキャラクターが非常に楽しく、完成度もかなり高い。
動画性能が高いのはもちろんだが、豊富なカラーモードや設定などの操作性に優れた設計、気軽に持ち運べる携帯性など、スチル撮影においての魅力もこのコンパクトなボディに詰まっている。
ボディデザインもカッコ良く、プロダクトとして満足感もかなり高いカメラだ(ここ重要)。
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